インフルエンザワクチンは効くのか?(後編)

インフルエンザワクチンは効くのか?(後編)

今回は、前回に引き続き、「インフルエンザワクチンの予防効果はあるのです!」

ということを、データに基づいてお話しします。

 

前回は、予防接種に否定的な「前橋レポート」のお話をしました。

「前橋レポート」では、いろんな問題点がありましたね。

信頼性が高いとは言えないものでした。

前回の記事はコチラ→インフルエンザワクチンは効くのか?(前編)

 

今回は他の論文を見てみましょう。

信頼性が比較的高い臨床試験結果の論文です。

インフルエンザワクチンの予防効果がちゃーんと認められているということをお話しします♪

1. 信頼性が高いインフルエンザワクチンの論文

インフルエンザワクチンの効果については、たくさんの論文があります。

ここでは、複数の論文を合体させた、まとめ論文についてお話ししますね。

多くの臨床試験結果を合体させて、より信頼性が高い解析をすることを「メタ解析」と言います。

今回お話しするまとめ論文は、「メタ解析」という方法でまとめられた論文ということです。

以前の記事もご参考まで→信頼できる健康情報とは何か?人間を対象にした研究の方法論

 

ちなみに、一つ一つの論文を見たい場合は、このまとめ論文から見つけることができますよ。

このまとめ論文では、以下のような方法で、インフルエンザワクチンの効果が検討されました。

高熱で病院を受診してきた人を2つのグループに分ける

  • インフルエンザ検査が陽性だったグループ
  • インフルエンザ検査が陰性だったグループ

 ↓
両者のワクチン接種率を比べる
 ↓
どっちのグループで、ワクチン接種が多かったか?
 ↓
ワクチン接種がインフルエンザ予防効果があったかどうかがわかる!

 

この方法の良いところは、以下のような点です。

  • 「インフルエンザにかかっているグループ」と「かかっていないグループ」を正確に区別できる
  • 「ワクチン接種した人」と「接種しなかった人」も正確にわかる

したがって、「より適切に予防接種の効果を評価することができる!」

ということですね。

「前橋レポート」のときは、インフルエンザにかかったかどうかも特定できない状況がありました(>_<)

インフルエンザ予防接種が必要がどうかを考えるための調査であるにもかかわらず(-_-;)

当時の時代背景を考えると、やむを得ないのだと思われます。

 

ともかく、上記のような適切な方法で、これまでにたくさんの臨床試験が行われました。

そして、その結果を合体させて、評価した結果が2016年に報告されました[1]。

結果は次の項で♪

2. 信頼性が高いインフルエンザワクチンの臨床試験の結果は?

すでに前述しましたが、結果は

「インフルエンザワクチンの予防効果が認められた!」というものです。

 

その前に一つだけ説明させてください。

流行するインフルエンザには、大きくA型とB型があります。

A型の中には、また「H1N1」と「H3N2」が、有名な流行株としてあります。

  • A型(H1N1タイプ)
  • A型(H3N2タイプ)
  • B型

 

さて、前項でお話しした合体論文の結果は以下のようなものでした。

(結果の解釈は後述しますね)

  • A型(H1N1タイプ)ウィルスに対する「ワクチン効果」は67%
  • A型(H3N2タイプ)ウィルスに対しては33%
  • B型ウィルスに対しては61%
  • 高齢者のみ、A型(H3N2タイプ)ウィルスに対してだけ、明確な「ワクチン効果」が認められなかった
  • 小児に対しては、いずれの型に対しても「ワクチン効果」が認められた
  • 重い副反応の頻度は、ワクチンを打ったグループと打たなかったグループで大きく変わらなかった

ここでいう「ワクチン効果」について、説明が必要ですね。

感染症専門医である岩田健太郎氏の著書にわかりやすい説明があるので、その記載を一部お借りしました。

岩田健太郎著「ワクチンは怖くない」光文社

(といいますか、今回の記事では、岩田氏の著書の内容を紹介したくて、記事内容の多くは岩田氏の著書を参考にさせていただいていますm(__)m。例によって、この記事内容の全責任は私にあります)

 

さて、「ワクチン効果」とは、ワクチンの効果のことです。

そのまんまですね♪

具体的には、ワクチンの効果を、0~100%の数値で示したものです。

例えば。

<例①>

ワクチンを打っても打たなくてもインフルエンザになる率が同じである場合

(ワクチンが効いていない場合)

→ワクチン効果は0%

 

<例②>

ワクチンを打ったらインフルエンザを完全に予防できる場合

→ワクチン効果は100%

 

<例③>

ワクチンを打ったグループのインフルエンザになる率が、打たないグループの半分になった場合

→ワクチン効果は50%

 

つまり、上で示したワクチン効果67%というのは、こういうこと意味しています。
 ↓
「100人がかかるはずだったインフルエンザを、ワクチンのおかげで67人はかからずに済んだ!」

 

一方、ワクチンを打ったのに、インフルエンザにかかる人もよくいますよね。

上の例だと、100-67=33人は、予防接種の恩恵を受けられなかったことになります。

でもでも、多くの人が、予防接種でインフルエンザにかからずに済んでいるということ!

その事実は、この研究結果から明らかでしょう!

 

また、上記で示したワクチンの効果は、ちゃーんと「統計解析」がなされています。

統計解析?

よくわかりませんよね?

でも、 詳しくわからなくても全然オッケーオッケーです!

統計の専門家以外の人は、だいたいわかっていないので。

お医者さんでも詳しくない人がたくさんいますよ。

統計解析とはこういうもんだ。という考え方だけわかっていればオッケー。

 

今回の場合は、こういうことです。


ワクチンを打ったグループが、打たなかったグループより、インフルエンザが少なかったとき。

グラフの見た目で「差がある」と思うのではなく!

まぐれで、たまたまできた差ではなく!

両者は本質的に差がある!

ということを、データに基づいて判断する方法。

つまり、統計解析とは、両者には本当に差があるのかどうかを、データを分析することによって判断する方法なのです。


例えば。

横綱が、前頭(平幕)力士に負けることがたまーにありますよね?

平幕からすると、「金星(きんぼし)」と言うほどのことです。

横綱1勝 vs 平幕1勝

場合によっては、

横綱1勝 vs 平幕2勝

平幕の方が勝ち星が多くなることも、ごくごくごくまれに一瞬あるかもしれません。ないか。。

 

でも、仮にそうなったとしても、

「横綱と平幕の実力はそんなに違わない」もしくは

「横綱より平幕の方が強い」

と思う人はいません。

「偶然でしょ!」で終了です。

 

そうです。そんなんじゃ、どっちが強いかなんてわかりません。

もっと大差で勝ち越さないと、どっちが強いかわかりませんよね?

実際は、横綱が圧倒的です。

何度もやれば、横綱の勝ち越しは決定的でしょう!

30回も対戦すれば、28勝2敗くらいになるんじゃないかな?

それくらいたくさんやれば、 どっちが強いか明らかでしょう?

そういうことなのです。

統計解析すれば、「横綱が平幕より強いということが、偶然ではなく実力だ」ということが、データに基づいてはっきりする。

ということです。

要するに、統計解析は、両者の差が偶然ではなく、本質的な実力の差かどうかを見極める方法ということです。

 

話が逸れましたm(_ _)m

上記のまとめ論文では、この「統計解析」で、インフルエンザ予防効果が認められました。

「偶然の差ではなく、本当に差があったんだな」と解釈してくださいね♪

まとめるとこんな感じです。

表 メタ解析研究における、ワクチン効果のまとめ

A型(H1N1) A型(H3N2) B型
全体 67% 33% 54%
高齢者 62% 24%(偶然の可能性あり) 63%
小児 69% 43% 56%
  • 高齢者のA型(H3N2)のみ、「偶然の可能性は否定できない」
  • それ以外はすべて、偶然ではなく、本質的に「効果ありと判断できる」

という結果でした。

 

インフルエンザ予防接種に否定的な「前橋レポート」と比べると、こんな感じですかね。

インフルエンザ確定診断 ワクチン接種の有無判定 統計的評価 結果
前橋レポート できていない あいまい 不十分 ワクチンは有益と言えない
メタ解析 できている 確実 あり ワクチンの効果認める

 

3. インフルエンザワクチンは、集団予防効果まで確認されているのです!

インフルエンザワクチンの「集団予防効果」を示した論文もあります。

「集団予防効果」とは、何でしょうか?

例えば。

子供がインフルエンザワクチンを接種する
 ↓
家族もインフルエンザにかかりにくくなる

ということです。

アメリカにおける調査では、子どもに予防接種すると、家族がインフルエンザにかかるのが少なくなったという結果が報告されています[2]。

カナダでも、同様の研究結果があります[3]。

 

また、「メタ解析」の研究結果もあります[4]。

この研究では、生後6ヵ月から17歳の子どもにインフルエンザ予防接種して、「間接的に集団予防効果が得られるか」を検討されました。

その結果、30件の研究のうち、20件で、はっきりした集団予防効果が認められました。

すべての研究で、はっきりした結果が得られたわけではありませんが、

信頼性が高い研究ほど、はっきりした集団予防効果を示す結果が得られていました。

4. 日本のインフルエンザ予防接種状況

日本のデータもあります[5]。

といっても、 ここでお話する論文の著者は、アメリカ人です。

アメリカの研究者が、日本のインフルエンザワクチン接種の状況をまとめた論文になります。

よっぽど日本の状況に関心があったのでしょうか。

 

日本では、かつて小中学校でワクチン接種が行われていましたね。

1962年から1987年まで。

前回の記事でお話しした「前橋レポート」も、この学校での集団予防接種の時期でした。

若い読者はご存知ないんじゃないでしょうか?

 

しかし。その制度はなくなっちゃいました。

なぜか?

ワクチンの副反応が、マスメディアによってセンセーショナルに報道され、

それによって国民のワクチンへの信用もなくなり、

法改正され、

任意接種になりました。

と、この論文では説明しています。

まあ、あながち間違いではありません。

 

それによって何が起こったか?

アメリカの研究者は、それによって起こったことを、この論文にまとめたのでした。

その研究者は、厚生労働省の死亡統計のデータをつぶさに調査して、以下の結論に至りました。

  • 小中学校でのインフルエンザ予防接種の中止によって、日本の全死亡率や高齢者の肺炎死亡率が上昇した。
  • 子供へのワクチン接種によって、高齢者の死亡率を抑制していた。

 

論文の図です。

インフルエンザワクチンは効くのか?(後編)

太線が日本における死亡率。特に、太い波線が、肺炎の死亡率です。

日本で子供たちへの集団予防接種が始まった1962年ごろから、死亡率が下がりはじめています。

そして、集団予防接種が中止になった1987年以降に、死亡率がまた上がりはじめています。

アメリカの研究者は、このような動きから主張をしているのですね。

子どもたちへの集団予防接種をしていた期間は、「集団予防効果」が出ていたことを示唆するデータと言えるでしょう。

 

前述しましたが、「集団予防効果」とは、以下のような効果ですね。


子供がインフルエンザワクチンを接種する
 ↓
家族もインフルエンザにかかりにくくなる


ただ、この論文で、「子どもたちへの集団予防接種」と「死亡率の変化」との間の関係において、どの程度の因果関係があるのかについては、個人的にはもう少し議論の余地があるように感じました。

一見、関係があるように見えますが、他の隠れた原因があるのかもしれないからです。

 

いずれにしても、

「インフルエンザ予防接種は、本人だけじゃなく、周囲の人への予防効果も期待できる!」

ということを示す信頼性が高いデータが、海外で得られていることがわかりました。

日本でも、信頼性が十分に高いとは言えないものの、他の研究結果と同様の、一貫した結果が得られている、ということがわかりましたね。

5. インフルエンザ集団予防効果の意義は?

ところで、上の内容で、「インフルエンザで人が死ぬ?」と思った人はいませんか?

とても身近なインフルエンザ。

「1週間もあれば完治するでしょ。」

その通りです。健康な人は。

 

でも、高齢者には命とりです。

インフルエンザになると、肺炎などの二次感染になる恐れが高くなるのです(-_-;)

インフルエンザで喉が炎症でやられると、 免疫力が落ちてしまい、 肺炎になりやすくなってしまうので(>_<)

また、最近は、インフルエンザで、心筋梗塞のリスクが高くなるということもわかってきました(>_<)[6]

小さいお子さんに対しても注意が必要です。

 

つまり、インフルエンザの予防接種の意義は、自分がインフルエンザにならないというだけではないのです。

「集団予防効果」によって、周りのリスクが高い人たち。


「高齢者」

「小さいお子さん」


たちを守るためにも、効果的だと言えるのです!

 

「みんなのために予防接種に行くべきだ!」と言ってるわけではありません。

「予防接種は、自分にもみんなにも意義があることなんです!」と言いたいだけなんです。

 

ちなみに、厚生労働省は、インフルエンザ感染者の統計として、以下のように公表しています[7]。

  • インフルエンザの死亡者数214~1818人(2001~2005)
  • インフルエンザか関係した死亡者数:年間1万人
  • 世界のインフルエンザ関連死数:年間25~50万人

でも、これは過小評価で、実際はもっと多いと最近言われていますね[8]。

6. ワクチンの効果は置いておいて、副反応はどうなの?

ワクチンには、必ず副反応があります。

それをわかった上で、利益と不利益のバランスを見るのです。

以下の2つを理解する。

  • 利益: 効くということ
  • 不利益:副反応が起きるということ

この2つのどっちを重視すべきかを考える。

そして、利益が上回ると判断できたときのみ、接種する。

こういうことです。

 

これは、薬も同じ考え方ですね。

失明する危険がある病気を治療するためには、充血の副反応が多少ある目薬でも使うでしょう?


利益失明を防ぐことを期待できる)>>>不利益(充血する)


そういうことです。

 

さて、インフルエンザワクチンに戻りましょう。

病院やワクチン製造会社が、インフルエンザワクチンの副反応を確認したとき、国に届け出る制度になっています。

厚生労働省の公表によると、平成28年シーズンに報告されたインフルエンザワクチンの副反応の頻度は、0.0005%でした[9]。

そのうち、重い副反応だったのは、0.0002%でした。

ワクチンとの関係が不明なものも含めています。

0.0005%というのは、100万人にワクチンを打ったとき、5人に副反応が起こるというものです。

ただ、これは病院やワクチン製造会社が把握している数であって、把握されていない数も当然あるでしょう。

どの程度かはわかりませんが。

ただ、重い副反応の場合は、病院に行って治療を受けて、そこでわかるはずなので。

「そこまで劇的に増えるということはないんじゃないかな」と予想できます。

7. 結局、インフルエンザの予防接種は受けた方がいいんだよね?

インフルエンザの予防接種は受けた方が良いですね(^^)/

もちろん、受けられない事情がある場合は別ですが(・_・)

  • ワクチン のアレルギーを持っている場合
  • 重い病気を持っていて、その治療に集中しないといけない場合
  • 経済的な理由がある場合

なとなど。

このような、やむにやまれぬ事情があるときは、予防接種を見合せることになるでしょうけど。

私は医師ではないので、このあたりはお医者さんに相談しましょう♪

 

ちなみに、アメリカでは、インフルエンザ予防接種を強ーくオススメしています。

アメリカに、国際疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)
というところがあります。

文字通りの仕事をしているところです。

このCDCが公表しているワクチン効果を見てみましょう。

2013-14年期のワクチン効果のデータ:

  • 6カ月~4歳:47%
  • 5~19歳:56%
  • 20~64歳:52%
  • 65歳以上:39%

ちゃーんと効いてるでしょ?

「ワクチン効果」については、今回の記事でお話ししましたね。

 

また、CDCは、この期間のインフルエンザ予防接種について、以下のような推定をしています。

2013-14年期のインフルエンザ報告数:

  • インフルエンザ発症数:7,178,318人
  • 病院を受診する数:3,123,563人
  • 入院数:90,068人

そして、このような状態に至るインフルエンザ患者の16.9%が、ワクチン接種により阻止されたと推定しました。

8. まとめ

前回と今回の記事で、「インフルエンザ予防接種には効果がある」ことをお話ししました。

前回の記事:
インフルエンザ予防接種否定派が引用する論文「前橋レポート」は、現代の科学水準からすると、適切な分析がされているとは言えない

今回の記事:
信頼性の高いインフルエンザワクチンの論文では、予防接種の効果が確認されており、大きな安全性の問題も認められていない

ということで。

周りに以下のような人がいたときでも、あなたはどうすれば良いか、もうわかりますよね?


「インフルエンザの予防接種を受けたけど、インフルエンザになつちゃったよ!?予防接種なんて効いてないよ!」

「インフルエンザの予防接種を受けてない友達も、インフルエンザにならなかったよ!?予防接種なんて意味ないんじゃね?」


こういう意見だけで、効果がないと判断してはいけません。

研究者たちが努力して、これまでに蓄積してきたデータを見てください。

研究者たちは、 みんなに見てもらって、役にたつために、人生をかけて研究をしているのですから。

 

これまでの記事を見ていただいた読者なら、今回お話ししたデータは、十分信頼できるものだということがわかるはずです。

それでも疑念が晴れない場合は、お医者さんに相談すれば良いでしょう。

良識のあるお医者さんなら、現代の科学水準をふまえてオススメしてくれるはずです。

【参考文献】

[1] Lancet Infect Dis. 2016 Aug;16(8):942-51.
[2] JAMA 2000 Oct 4;284(13):1677-82
[3] JANA 2010;303(10):943-950
[4] Clin Infect Dis. 2017 Sep 1;65(5):719-728.
[5] N Engl J Med 2001; 344:889-896
[6] N Engl J Med 2018; 378:345-353
[7] 厚生労働省ウェブサイト(最終閲覧日:2018年11月10日), https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html#100
[8] Lancet. 2018 Mar 31;391(10127):1285-1300.
[9] 医薬品・医療機器等安全性情報 No.349(2017年12月), 平成28年シーズンのインフルエンザワクチン 接種後の副反応疑い報告について

おわり。