インフルエンザワクチンは効くのか?(前編)

インフルエンザワクチンは効くのか?(前編)

インフルエンザの予防接種に効果があるのか?

疑っている人はけっこう多いのではないでしょうか。

 

前回の記事でお話しした通り、予防接種は、効果を実感しにくい性質なのです。

前回の記事はコチラ→予防接種は効きます!接種するか迷ってる人は読んでください!

 

でもでも、あえて言いましょう。

インフルエンザ予防接種の効果があることは明らかにされています!

それを、今回と次回の記事で、詳しくお話ししていきますね。


  • 今回の記事では、「インフルエンザ予防接種に否定的な論文」に対する反論
  • 次回の記事では、信頼性が高いインフルエンザワクチンの効果と安全性

ということで、今回は、

「インフルエンザ予防接種が効かないという説には問題があるのですよ。」

ということを、データに基づいてお話しします。

1. 「インフルエンザの予防接種は効果的ではない」という論文の問題点

日本には、「インフルエンザの予防接種」の否定派がたくさんいます。

しかし、その根拠はしばしば信頼性が高くありません。

「インフルエンザ予防接種否定派」達が、その根拠としてよく持ち出してくるのが、いわゆる「前橋レポート」です。

 

「前橋レポート」にはいろんな問題点があるのです。

それにも関わらず、 長い間、今でも、「否定派」の根拠として使われてきました(・・;)

2. 前橋レポートとは?

「前橋レポート」は、前橋市インフルエンザ研究班が、1987年にまとめた報告書です[1]。

インフルエンザ予防接種の有用性に否定的な代表的論文と言えるでしょう。

 

内容は、群馬県前橋市における、調査報告書です。

以下の2つのグループに分けて、欠席状況が調査されました。


  • 予防接種した地域の小中学校学童
  • 予防接種しなかった地域の小中学校学童

「予防接種したグループ vs 予防接種しなかったグループ」です。

 

この2つのグループを比べた結果、

「インフルエンザにかかった率は大きく変わらなかった!」

 ↓

「子どもたちにインフルエンザ予防接種しても、地域のインフルエンザを防ぐ効果はない」

 ↓

「子どもたちに予防接種しなくて良いのではないか」

と結論付けています。

 

著作権の関係で、アクセスできるサイトのみお示しします。

このレポートは、101ページもある大作です。

膨大なデータ分析と考察をしています。

なので、「岩田健太郎」という感染症専門医が、著書で簡潔にまとめられているのを使わせていただきますね![2]

岩田健太郎 「予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える」光文社

 

なお、当然ながら、私もこの前橋レポートを読みました。

その上で、岩田氏の見解に概ね同意しましたので、岩田氏のまとめを使わせていただくことにしたしだいです。

3. 「前橋レポート」をどう解釈するか?岩田氏の見解

前述の通り、「前橋レポート」は解釈に問題があるレポートと考えられます。

以下、岩田氏の考察をまとめました。

(注:以下の記載は、岩田氏の著書を参照しましたが、あくまで岩田氏の著書を読んだ私の解釈であり、記載内容の責任は私にあります。)

 

まず、岩田氏は、このレポートを以下のように高く評価しています。


  • 内容が精緻で、よく分析された論文である
  • 医療の世界に貢献したいという真摯な態度と誠実さ、そして魂のようなものを感じる

 

その上で、その結論の妥当性には、主に以下のような問題点を指摘しています。

①全国のインフルエンザ患者と、前橋市の欠席率の比較が不適切
(グラフの見た目で比較している)
ツッコミ:
グラフの見た目だけで比べるって適当過ぎやん!データを統計的に分析せんとわからんわー(>_<)

②学校の欠席理由(発熱)をもって、インフルエンザ罹患と定義している。
ツッコミ:
みんながインフルエンザで学校休んだとは限らんやん!

③インフルエンザ予防接種率が50%未満の地域も、「インフルエンザワクチン接種を受けた地域」と定義している。
ツッコミ:
予防接種受けてない方が多いのに、何で「予防接種受けたグループ」になっちゃうねん!?

このように、「前橋レポート」は、当時とても熱意をもって作られたものではありますが、

今の科学水準からすると、適切な評価がなされたとは言えないレポートなのです。

 

岩田氏のまとめは、以下の通りです。

  • この論文は、当時の評価方法からすると非常によく検討されたものである
  • しかし、現在の科学レベルで考えると適切な評価をして導き出された結論とは言えない

私は岩田氏の見解に概ね同意します。

それに加えて、私なりに思うところは、以下のとおりです。

 

このレポートでは、分析方法を、ある程度、研究者が自由に選ぶことが可能でした。

「ワクチン接種グループと、接種しないグループで、差が出ないように比較する。」

ということも、できたかもしれないのです。

これはどういうことでしょうか?

 

例えば、研究者は、2つのグループを作りました。


  • 予防接種しなかった地域(前橋市)
  • 予防接種した地域(研究者が選んだ3地域)

 

そして、両者を比較して、 こう結論付けたのです。


インフルエンザになったのは、両者で変わらなかった。
 ↓
ということは、予防接種は効果的とは言えない。


 

もし、あなたが、「両者で差がないという結論にしたい」と最初から考えていたとすると。

前橋市と比較する3地域は、どこを選びますか?

インフルエンザになる率が、前橋市とそんなに変わらない地域を選びますよね?

つまり、自分たちの都合の良い結果になるように、データを選べてしまうのです(-_-;)

 

レポートでは、研究者がその3地域を選んだ理由もしつかり説明してはいました。

でもでも、「そんなのは後付けでいくらでも言えるでしょ?」

と言われたら。。

客観的な反論はなかなか難しいのです(>_<)

 

この前橋レポートの研究は、「観察研究」です。

以前の記事でも度々お話ししてきましたが、

「観察研究」は、このような、データの信頼性に注意が必要な研究でしたね!

 

実際に、レポートでは、どのような手順で比較したでしょうか?

最初、前橋市と他の地域を比較

インフルエンザになった率に差が認められた(大きい差ではないと考察されていた)

その後、その差は小さいとして、方法を変えて再度比較

ほとんど差がない結果が得られた!

結論:この再比較の結果から、両者に大きな差がないことがわかった!

どうですか?

前橋市と他の地域との比較方法を、自分で選ぶことができたのです。

実際に、前橋レポートの研究者が、自分たちに都合が良いデータを選んだと言っているのではありませんよ。

そういうことが、やろうと思えばやれてしまう。

そんな研究方法であることを問題視しているのです。

 

このような、 都合良くデータを選べてしまう状態。

それを、臨床研究の分野では「選択バイアス」と呼んでいます。

以前の記事でも少しお話ししましたね。

以前の記事はコチラ→信頼できる健康情報とは何か?人間を対象にした研究の方法論

 

選択バイアスは、結果を歪める原因となるものなのです。

このようなバイアスが入らないために、もしくは入ってしまうとしても、その影響を最小限にするために、研究者はあらゆる努力をしなければなりません。

4. まとめ

いかがでしたか?

「インフルエンザ予防接種は、地域のインフルエンザを防ぐのに効果的ではない」

とする「前橋レポート」。

そこには、適切ではないと考えられる分析方法が散見されました。

 

分析方法が十分に確立されていなかった時期に作成されたレポートです。

しょうがありません(+_+)

当時としては、最善の努力の結果だったのだと思われますが。

 

それでは、適切な方法で分析されたときには、どのような結果が得られるのでしょうか?

インフルエンザワクチン接種の効果を調べた最近の研究結果は、たくさんあるのです!


不思議なことに、インフルエンザ予防接種否定派は、30年以上前に報告された「前橋レポート」を主張しますが、

  • もっと最近の
  • もっと多くの
  • もっと信頼性が高い

そんな臨床試験の結果を軽視しています。

というか、 無視しています。

なぜ、信頼性が高い他のデータを無視するのですか?


前橋レポートに対する上記のような意見について、反論したいワクチン否定派の方はきっといるのでしょう。

でもでも。その前に。

前橋レポートだけでなく、近年の、より信頼できる方法で評価された多くの研究結果についても、目を向けてもらいたいです。

ということで、次回は、インフルエンザワクチン接種の効果に関して、近年報告されている研究結果をお話ししますね。

次回はコチラ→インフルエンザワクチンは効くのか?(後編)

 

【参考文献】
[1] 前橋市インフルエンザ研究班班, 1987 年 1 月 31 日, ワクチン非接種地域におけるインフルエンザ流行状況
[2] 岩田健太郎 「予防接種は「効く」のか?ワクチン嫌いを考える」光文社

おわり。